召喚魔法 05
ドラマ
必死になってもどうしようもないときがある。
己の無力さを思い知らされる時がある。
その時、人は涙する。
白血病の患者。しかも、脳内出血。
まだ若い。
手術をすれば治せる。けど、白血病が邪魔をする。手術ができない。
激しい頭痛に襲われる。激痛。私は経験していないからわからない。けど、意識のある患者の悲鳴とあえぎ声から想像がつく…。オペできない以上、どうすることもできない。できることは、麻薬指定の薬で眠らせて、死を待つことだけ…。
両親が最後の面会に来る。別れの言葉を交わす。そして、薬の投与…。
安楽死ではない。
泣き崩れる母親…。謝ってばかりいた。
母 『ごめんね。私がもっと丈夫に生んでいたらね…。』
それを聞き、看護婦全員、涙した…。
スコールド・バーン。
母親が目を離したすきに、熱湯を頭からかぶってしまった4歳の女の子。
全身火傷。
全身に巻かれた包帯が痛々しい…。
気道確保に開けられた口から言葉が漏れる。
子ども 『おはぁひゃぁ〜。いはよぉ〜。おはぁひゃぁ〜 (お母さん。痛いよ。お母さん)…。』
その声に涙する。
エンゼル。
エンゼルとは、亡くなった方への最後の処置…。
私にセクハラを仕掛けたお局様と、エンゼルに入った。
亡くなった中年男性。死にたてのほやほや状態は、まだ温かい。全身をアルコールで拭いてあげる。そのうち体がだんだん冷たくなる。
お局様がつぶやいた。
お局 『ごめんね…。』
死体に話しかけるなんてよくある話。寺の坊主は死んだじいちゃんに話しかけていた。
けど、違った。
お局 『ごめんね…。苦しかったよね。』
お局様が泣いていた。
己の無力を感じ、人は涙する。
けど、それでも人は必死になる。そこにドラマが生まれる。
そのお局様が医者とやりあった。
ヒステリックに叫ぶ!!
お局 『○○(薬の名前)、そんな量、うちに無いわよ!!!』
乱暴に薬の引き出しを開ける。
そこにズラリと並ぶ○○。
それを見て
お局 『え!?』
驚いた瞬間、彼女が私を見た。
無表情にガッツポーズを送る。
泣き出すお局様…。
真剣勝負の人と人のはざまに生まれる奇跡…。
ある日、お局様が聞いてきた。
お局 『スーさんはなぜこんなところにいるの?』
私 『見聞を広げ、子どもたちに夢を語れる先生になるため。』
最初に世話になった塾の教室長が、いろいろな仕事を経験してきた先生で、いろいろな話を子どもたちに聞かせてあげてた。それを見て、私もそうなろうと思った。だから、入った病院。集中治療室へ回されたことが最大の幸運だったと、この時、思った。
私 『○○さんは、なぜこの仕事を?』
まともな返事など返してくれないなんて分かりきっていて、それでも聞いてしまった。
お局 『何でだろうねぇ〜、ははは。』
もちろん冗談めいた笑いで逃げられてしまった。
私 『俺、この仕事でめぐりあったみなさんのこと、必ず子どもたちに伝えますから!!』
いつものように高ビーな微笑みを浮かべたお局様だったけど、彼女の瞳は潤んでいた。
違うかもしれないけど、私にはそう見えた…。
この時、すでにお局様と私とは目で話ができるほどの仕事のパートナーになっていた。
信頼という名の固い絆を結んで…。
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